前橋地方裁判所 昭和60年(ヨ)177号
債権者
黒崎弘
右訴訟代理人弁護士
樋口和彦
同
田見高秀
同
大塚武一
同
飯野春正
同
茂木敦
同
下田範幸
債務者
前橋信用金庫
右代表者代表理事
大崎林三
右訴訟代理人弁護士
足立博
主文
一 債権者が債務者に対して雇用契約上の権利を有する地位にあることを、仮に定める。
二 債務者は債権者に対し、昭和六〇年九月二六日から本案訴訟の判決確定に至るまで、毎月二〇日限り、一か月あたり金三二万五九〇〇円の割合による金員を仮に支払え。
三 申請費用は債務者の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 申請の趣旨
主文と同旨
二 申請の趣旨に対する答弁
1 本件申請を却下する。
2 申請費用は債権者の負担とする。
第二当事者の主張
一 申請の理由
1 当事者
(一) 債権者は債務者の従業員であり、債務者本部の業務推進部所属の調査役として勤務し、定期積金の集中集金の業務を担当していた者である。
(二) 債務者は前橋市に主たる事務所を有し、預金又は定期積金の受入れ、会員に対する資金の貸付け等を事業目的とする、金融機関である。
2 被保全権利
債務者は昭和六〇年九月二六日、債権者を懲戒解雇したとして、同日以降債権者が債務者に対して雇用契約上の権利を有する地位にあることを争っている。
3 保全の必要性
債権者の賃金は一か月あたり三二万五九〇〇円(毎月二〇日支給)であるところ、債権者には妻と子供三人の家族があり、その生活は債権者の収入によって成り立っている。したがって、債権者が雇用契約上の地位確認の本案判決の確定に至るまで債務者から賃金の支給を受けられないとすれば、債権者ら家族は経済的に困窮し回復し難い重大な損害を被ることになるので、本案訴訟の判決確定に至るまでの賃金の仮払いを受ける必要性がある。
4 よって、債権者は債務者に対し申請の趣旨記載の裁判を求める。
二 申請の理由に対する認否
1 同1及び2の各事実はいずれも認める。
2 同3の事実中、債権者の賃金が一か月三二万五九〇〇円(毎月二〇日支給)であること及び債権者に妻と子供三人の家族があることは認め、その余の点は争う(すなわち債権者は自宅である土地、建物を所有しているし、現在の好況な労働市場からすれば、他に稼働して家族の生活費程度の収入を得ることは容易であるから、賃金仮払いを受ける必要性はない。)。
三 抗弁
1 解雇
債務者は昭和六〇年九月二六日、債権者に対し、別紙記載の就業規則四九条一項、三項、四項にそれぞれ該当する事実があることを理由として、同五〇条一項、五一条一項により同日付けをもって懲戒解雇する旨の意思表示(以下「本件解雇」という。)をした。
2 解雇の理由
本件解雇の理由は、債権者の業務上横領行為である。
すなわち債権者は、集中集金係の業務として、昭和六〇年七月六日午後零時五分ころ、定期積金預金者である大橋巧宅を掛金集金のため訪れ、同人からその第三八回掛金(昭和六〇年七月分)として一万円を受領し、同人保管の定期積金証書の掛込金受領印欄に受領印を押捺して証書を返還したが、債権者が当時所持していた定期積金集金カード(以下、「集金カード」という。)には右集金の事実を証明すべき受領印を押捺しなかった。そして債権者は、同日の業務において八七口、金額では一三一万二九〇〇円を集金したにもかかわらず、右大橋の掛金一万円をその集金額から故意に除外し、集金業務終了後に帰店して作成する集金日誌には実績集金口数八七口、同金額一三〇万二九〇〇円と虚偽の記載をしてこれを集中集金担当役席に提出し、もって、掛金一万円を着服して横領した。
債権者のこのような集金一万円の横領行為は、前記就業規則四九条一項、三項、四項に各該当するので、債務者は債権者を解雇したものである。
四 抗弁に対する認否
1 同1の事実は認める。
2 同2の事実中、債権者が集中集金係の業務として昭和六〇年七月六日午後零時五分ころ、定期積金預金者である大橋巧宅を掛金集金のため訪れ、同人保管の定期積金証書に受領印を押捺して同人にこれを返還したこと、及び同日の業務終了後に帰店して集金日誌を作成し、これを債務者の集中集金担当役席に提出したことは認めるが、その余の事実は否認する。
五 債権者の主張
本件解雇は無効である。
1 解雇事由の不存在
債権者には、昭和六〇年七月六日業務上保管していた一万円を横領した事実はない。
すなわち、債権者は右同日、一三四件の集金をすべきところ、現実には八七件、金額一三〇万二九〇〇円を集金しえたに留まった。そして債権者は、業務を終えて帰店し当日集金した八七件の集金カードを集中集金担当役席に提出したのであるが、これを入金処理する電算機オペレーターが何らかの理由で大橋巧の集金カードを除外したため、同人からの集金一万円は入金の処理がなされない結果となった。このように当日の経緯は、債権者の業務遂行中に生じた一万円の集金不足という単なる事故に過ぎず、横領の事実はない。それゆえ本件解雇は、解雇事由を誤認したものであって、無効である。
2 不当労働行為
本件解雇は、債務者の不当労働行為であるから無効である。
すなわち、債務者の従業員の一部は労働組合として前橋信用金庫従業員組合(執行委員長茂木孝康)を結成しているところ、右茂木孝康ほか債権者を含む一一名は債務者から不当労働行為を受けたため群馬県地方労働委員会に対し救済を申立て、右は昭和五九年(不)第二号、昭和六〇年(不)第二号不当労働行為救済申立事件として同委員会に係属した(なお、各事件については、昭和六一年一月一八日群馬県地方労働委員会から、申立人らの主張をほぼ全面的に認める内容の救済命令が発せられた。これに対しては債務者がその取消しを求めて再審査の申立てをし、現在中央労働委員会において審査中である。)。こうした状況において債務者は、右組合の中心的役割をしている債権者を解雇することにより組合潰しを企図したものであって、本件解雇が債務者の不当労働行為であることは明らかである。
六 債権者の主張に対する債務者の認否及び反論
全部否認する。
債権者は、大橋の第三八回掛金について、集金カードの受領印及びその入金処理を示す印字がいずれも欠落しているのが発見された昭和六〇年九月六日以降、債務者が定めている規程に反して報告書の提出を故意に遅らせ、この間を利用して自己の出捐で大橋の右第三八回掛金の入金手続をとると共に、同人の定期積金証書の掛込金受領印日付を改ざんするなどしている。このような証拠隠滅行為からしても、債権者の横領の事実は疑いを容れないというべきである。
七 債務者の反論に対する債権者の認否全部否認する。
第三証拠
証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これらを引用する。
理由
一 申請の理由1、2及び抗弁1の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。
二 そこで抗弁2(債権者の業務上横領行為)について判断するに、本件全証拠によっても、右事実は疎明されないと言うべきである。すなわち、
1 定期積金の集中集金のシステム
(人証略)の証言、債権者本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、債務者の本部業務推進部における定期積金の集中集金のシステムは、大要次のとおりであることが一応認められる。
(一) 集中集金係は、集金カード(預金者ごとに作成されるカードであって、その表には、三六の受領印押捺欄があり、集金のつど受領印を一つずつ押捺していくもの)を持って顧客先を訪れ、顧客が保管する定期積金証書と掛金を受け取り、集金カードと定期積金証書の各集金回次が符合することを確認した上で、それぞれに当日付けの受領印を押捺し、証書を顧客に返還する。
(二) 集中集金係は、集金業務終了後帰店して、集金してきた掛金の合計を確認して金種類表(金銭をその金種ごとにまとめた書面)を作成するとともに、当日集金しえた集金カードの枚数及びこれに対応する金額を集計し、実際の集金額との突合わせを行なう。これに異常がなければ、集金日誌(当日の集金計画、集金実績((口数及び金額))、未収金内訳等を記載する書面)を作成し、集金してきた現金及び金種類表は出納係に、集金日誌及び集金カードは集中集金担当役席に、それぞれ提出する。
(三) 集中集金担当役席は、集中集金係から提出された集金カードと集金日誌とを突合わせた上で、「定期積金集金件数及び金額」と題する書面(集中集金係別に件数及び金額を記入するとともに、全体を集計したもの)を作成し、これを集金カードとともに入金担当の電算機オペレーターに提出する。
(四) オペレーターは、集金カードを電算機にかけて入金の処理をする(入金処理済みの集金カードの受領印押捺欄には、入金処理の年月日が電算機によって印字される。)。そしてオペレーターは、集中集金係別の集金額を電算機で打ち出して、テラー別精査カード(入金欄に債務者に入金処理された件数及び金額が表示される。)を作成する。以上の入金処理が終了すると、集金カードは集中集金係に返還され、テラー別精査カードは入金検印役席に提出される。
2 ところで、債権者が債務者の本部業務推進部に所属する調査役の地位にあり、定期積金の集中集金の業務を担当していたことは前記一のとおり当事者間に争いがないところ、(証拠略)、債権者本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、債権者は定期積金の預金者大橋巧(昭和五七年六月八日契約、給付契約金六五万六四二〇円、期日昭和六二年六月八日満期、掛金は毎月一万円で六〇回掛け、毎月六日払込み)についてその集金業務を担当していたこと、昭和六〇年九月六日、債権者が債務者の同じく調査役である訴外塚田欣也とともに、大橋宅を第四〇回掛金(昭和六〇年九月分)の集金のため訪れた際、その第三八回掛金(昭和六〇年七月分)について、同人が保管する定期積金証書には昭和六〇年七月六日付の債権者の受領印が押捺されているのに、集金カードは同日付の受領印及び入金処理の印字を欠く事実が発見されたことが、一応認められる。
右事実を、前認定1の集中集金のシステムに照らして考えると、大橋の第三八回掛金(昭和六〇年七月分)一万円は、その集金業務を担当していた債権者が昭和六〇年七月六日に集金保管したことが推認されるところ、その後これについて債務者による入金処理のなされた形跡が全くないのであるから、債務者において、債権者が掛金一万円を故意に債務者に入金せず領得したとの疑念を抱くのも、もとより当然と言える。
3 しかしながら、債務者における定期積金の集金及び入金処理については更に、(証拠略)、債権者本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、次のような経過で行なわれていることも、一応認められる。
(一) 大橋の定期積金証書(<証拠略>)には、昭和六〇年九月六日現在、第一回掛金(昭和五七年六月分)から第三九回掛金(昭和六〇年八月分)まで間断なく、すべて各月六日ないしはその数日後の日付にて、集金担当者(第一七回掛金((昭和五八年一〇月分))以降は債権者)の受領印が押捺されていること
(二) 集金カードの受領印押捺欄は三六個であり、掛金回数が三六回を超えるものについては二枚目の集金カードを作成し、第三七回掛金の分からはこれを用いて集金およびその後の入金業務を行なうが、二枚目の集金カードは、集中集金係から入金担当のオペレーターに対し三六個の欄すべてに受領印が押捺された集金カードが提出されたときに、同オペレーターが作成して集中集金係へ渡すのを通例とすること
(三) しかしながらこのような本来なされるべき取扱いとは異なり、三六個の受領印押捺欄が満たされた状態になっても直ちに新しい集金カードが作成されず、第三七回以降の掛金についても一枚目の集金カードの欄外の空白部分に受領印を押捺して集金し、入金処理する便宜的な処理が行なわれることもあり、債権者もこれまでにそのような処理をした経験を有すること、そして大橋については、少なくとも昭和六〇年九月六日当時においては新しい集金カード(<証拠略>)が作成されており、このカードには、昭和六〇年六月六日付入金処理を示す電算機による印字、並びに同年八月六日付の債権者の受領印及び電算機による印字があること(なお大橋の一枚目の集金カードは、債権者によって廃棄され、現在は存在しない。)
(四) 昭和六〇年七月六日の集金実績は、債権者個人は八七件、一三一万二九〇〇円、債権者を含めた集中集金係八名の合計では三三五件、四八六万二〇〇〇円と考えられるところ、債権者は昭和六〇年七月六日の集金終了後帰店して、当日の集金実績として件数八七件、金額一三〇万二九〇〇円と記載した集金日誌(<証拠略>)を作成し、これを集金カードとともに集中集金担当役席である岩田進に提出したこと、これに対応して岩田進が作成した昭和六〇年七月六日付の「定期積金集金件数及び金額」と題する書面(<証拠略>)には、債権者の集金は件数八七、金額一三〇万二九〇〇円、債権者を含めた集中集金係八名の集金については件数三三五、金額四八五万二〇〇〇円と記載されていること
(五) 定期積金の入金は、担当オペレーターが先ず提出を受けた集金カードを読取り機(MSSR機)にかけてカード裏面の磁気テープを読み取らせ、これによって打ち出された件数及び金額が「定期積金集金件数及び金額」と題する書面に記載されたそれに一致することを確認した上で電算機によって処理するのであるが、入金処理済みの集金カードにはその受領印押捺欄に入金処理日が印字されること(このように入金処理は、個々の集金カードの受領印とは無関係に行なわれるのであって、担当オペレーターも受領印の存否を確認することはない。)、本件の入金担当オペレーター大坪久美子は昭和六〇年七月六日、集金分として提出された集金カードを読取り機にかけたところ、債権者については八六件、一三〇万二九〇〇円と打ち出され、併せて受け取っていた「定期積金集金件数及び金額」と題する書面の記載とは集金件数のみが一致しなかったため、右書面の件数八七を、八六と訂正したこと
以上の事実を総合して考えると(ア)(ママ)大橋の第三七回掛金(昭和六〇年六月分)の集金は、一枚目の集金カードで集金されたが、入金処理の段階で二枚目の集金カードが作成されこれによって入金処理されたので、その旨の印字も二枚目の集金カードになされた、(ロ)第三八回掛金(昭和六〇年七月分)の集金の際は既に二枚目の集金カードが発行されているにも拘らず、何らかの理由で債権者はなお一枚目の集金カードを使って集金の手続を行なった(債権者が現実に金一万円を受領したか否かは暫く措く。)、(ハ)しかしながら右集金の当日、入金担当のオペレーターが読取り機にかけた債権者提出の集金カードは、これまた何らかの理由によって、大橋分を除く八六枚であり、同人分については入金の処理がなされなかった、以上のごとく理解することができる。
しかしながら右の事実を超えて、債権者が大橋の第三八回掛金(昭和六〇年七月分)一万円を現実に受領し、かつ、その後領得の意思をもってこれを出納係に提出せず秘匿したとまでの事実は、証拠上解明できない点が多く、なお疎明されるに至らないと言うべきである。
すなわち、まずその入金処理が未了のままであった原因としては、債権者が過失によって大橋分の集金カードを提出しなかったこと、あるいは右集金カードの提出を受けた入金担当オペレーターが入金処理に際し何らかの理由でこれを逸したことの可能性は、一概に否定できない。また、債権者から出納係に提出された現金に一万円の不足を生じた原因としては、当日債権者が集金した八七件の集金業務のうち、いずれかの集金の際の過誤、すなわち紛失や違算の蓋然性も否定し去るわけには行かない(現に、<証拠略>によれば、かかる現金不足の事故は、金融機関における大量の業務の間にはある程度不可避的に生ずることを窺うに十分である。)。のみならず、前認定のような債務者の集金、入金のシステムからすれば、顧客が保管する積金証書には受領印を押捺しながら、集金の一部を領得しこれに対応する集金カードを入金処理から除外するごとき横領の手段は、早晩露見することが必定の極めて稚拙な方法であることは明らかであって、債務者におけるこれまでの債権者の経歴等からすると、およそ考え難いところである。これらの諸事情に鑑みると、債権者が金一万円を横領したとの推断に伴う合理的な疑いは、とうてい払拭できないと言わざるをえない。それゆえ本件解雇は、事実を誤認してなされたものとして、無効と考えるのが相当である。
4 もっとも債務者は、債権者は大橋の第三八回掛金について集金カードの受領印及び電算機による入金の印字が欠落しているのが発見された昭和六〇年九月六日以降、債務者が規程で定めている現金事故報告書の提出を故意に遅らせ、この間を利用して自己の出捐で右掛金の入金手続をとったばかりでなく、同人が保管する定期積金証書の受領収日付を改ざんするなどしているのであって、このような証拠隠滅行為からしても債権者の横領の事実は明らかであると主張する。
たしかに(証拠略)および債権者本人尋問の結果によれば、債務者の定める出納事務取扱規程(<証拠略>)は、六五条において現金の不足が発生しその原因が当日中に判明しない場合の手続として、不足金は仮払勘定で処理するとともに店長は現金不足報告書(<証拠略>はその定型用紙。但し、現金事故報告書の表題である。)を作成し翌営業日までに検査室業務部経理課に提出する旨定めていること、債権者は昭和六〇年九月六日から遅れること一三日の同月一九日になって業務推進部長小林二郎に対し現金事故報告書を、同月二一日には「現金不突合についての報告」と題する書面(<証拠略>、前記現金事故報告書が末尾に添付されている。)をそれぞれ提出したこと、この間の同月九日、債権者は自己の出捐をもって一万円を大橋の定期積金の掛金として入金処理するとともに、同人の保管に係る定期積金証書の七月から九月までの各受領印の記載(いずれも六日付であった。)について、七月六日付を八月六日付に、八月六日付を九月六日付に、九月六日付を同月九日付にいずれも訂正したことが一応認められる。しかしながらこれらは、あくまで大橋の第三八回掛金の入金処理未了が発見された後に採られた事後処理にすぎず(したがって、そもそも隠蔽工作の意味を持ちえない。また積金証書の訂正も一見して後日なされたことが判る態のものである。)、債権者の対処の仕方に適切さを欠くうらみが残るのは事実としても、これらの疎明事実のみをもって前記判断を左右することは相当でないと言うべきである。
三 次に申請の理由4(保全の必要性)について判断するのに、債権者の賃金が一か月三二万五九〇〇円(毎月二〇日支給)であること、債権者には妻及び子供三人の家族があり、その生活は債権者の収入によって支えられていたことはいずれも当事者間に争いがなく、また、(証拠略)、債権者本人尋問の結果および弁論の全趣旨によれば、債権者の妻には手取りで約一〇万円の収入があるが、債権者には自宅のローンとして月二万五〇〇〇円返済の債務があること、本件解雇後、債権者は他に就業して収入を得るようなことはなく、本件仮処分命令によって賃金仮払がなされたときは保険金全額を返還することを条件として賃金の約六割の失業保険金給付を受けていたが、昭和六一年九月をもって右給付は打ち切られていることが一応認められるのであって、これらの事実を総合すれば、今後債権者が債務者に対し雇用契約上の地位確認の本案訴訟を提起しこれを認容する旨の判決の確定に至るまで債務者から賃金の支給を受けられないとすれば、債権者ら家族は経済的に困窮し回復し難い損害を被るものと考えられる。よって債権者には、仮に賃金の支払を受ける必要性があると言いうるので、債権者が雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定めたうえ、債務者に対し本件解雇の行なわれた昭和六〇年九月二六日を始期とし本案訴訟の判決確定時を終期として、賃金の仮払いを命ずるのが相当である。
四 以上の次第で、本件申請はその被保全権利及び保全の必要性がいずれも疎明されるからこれを認容することとし(事案に鑑み、保証は立てさせない。)、申請費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 春日民雄 裁判官 市川賴明 裁判官 宮﨑万壽夫)
別紙 前橋信用金庫就業規則(抄)
(懲戒)
第四九条 従業員が次の各号の一に該当するときは、情状により懲戒する。
一 法令、定款その他この金庫の諸規定に違反したとき。
三 職務の内外を問わず、この金庫に損失を及ぼしたとき。
四 金融機関の奉仕者たるにふさわしくない非行のあったとき。
(懲戒処分)
第五〇条 懲戒処分は次の通りとし、理事長がこれを行う。
一 解職
(処分の内容)
第五一条 処分の効果は次の通りとする。
一 解職は予告の期間を設けず即時解職する。